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東京高等裁判所 昭和38年(ネ)2014号 判決 1964年6月30日

控訴人(被告) 新潟県知事

被控訴人(原告) 志賀拡一郎 外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人指定代理人は原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。(原審昭和三五年(行)第一三号事件につき訴訟費用を控訴人の負担とする部分を含む)原審昭和三六年(行)第一号事件について被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人らの負担とするとの判決を、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並に証拠の提出援用及び認否は原判決の摘示するところと同一であるので、これを引用する。

理由

一、控訴人の本案前の主張に対する判断

控訴人指定代理人は本件買収処分無効確認の訴は行政事件訴訟法(以下単に新法と略称する)第三六条にいわゆる当該処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴によつて目的を達することができないものとの要件を具備していないから不適法であると主張する。そして、本件土地が昭和三六年一月九日付令書によつて買収され、同年三月一日訴外鈴木静治に売り渡され、同年一一月二七日その旨の登記が経由されたことは成立に争のない乙第一三号証の一、二によつて認められるところであり、本件記録によれば次の事実が明らかである。

即ち被控訴人ら代理人が本件土地は買収処分当時農地たる実体を失い、宅地に転用されていたし、かつ農地法第七条第一項第三号にいわゆる近く農地以外に使用目的を変更することを相当とする農地として指定されるべきものであるので、これを買収することは明白な違法があるとの理由により買収処分取り消しの訴を昭和三六年一月三一日提起したところ、原審における昭和三八年六月七日の口頭弁論期日において、右と同一理由に基き本件買収処分の無効確認を求める旨請求趣旨を変更し、同時に控訴人指定代理人が右申立に対し無効確認の訴は前記のように新法第三六条の要件を具備しないとの理由で訴却下の裁判を求め訴の変更に対し異議なく弁論をなした。

右事実によれば、被控訴代理人は右口頭弁論期日において従前の取消を求める請求趣旨を無効確認の請求趣旨に変更したのであるから、いわゆる訴の交換的変更をなしたものというべきであり、控訴代理人がこれに対し異議なく弁論をなした以上旧訴の取下につき暗黙の同意をなしたものと解すべきであつて、これにより本件訴訟は無効確認を求める訴訟として係属したことになつたわけである。

そうすると本件無効確認訴訟が新法の施行(昭和三七年一〇月一日)以後に係属するに至つたものとして一応同法第三六条の適用があるように見える。

しかしながら、被控訴人が前記買収処分取消の請求につきその原因として主張するところは、本件買収処分が農地法第七条第一項第三号に該当する土地についてなされた旨の主張を包含すること前記のとおりであり、控訴人がこのような顕著な買収処分の無効理由を原因とする買収処分取消の請求を買収処分無効確認の請求に変更しても、右両者は実質上同じ請求を包含するものと解して妨げない(最高裁昭和三三年九月九日第三小法廷判決(民集一二巻一九五一頁)、同昭和三一年六月五日第三小法廷判決(民集一〇巻六五六頁)参照)。したがつて、被控訴人が行政事件訴訟法施行後において買収処分取消の請求を買収処分無効確認の請求に変更しても、変更にかかる請求は行政事件訴訟法附則第八条第一項の適用については同法施行当時現に係属していたものと解するを相当とするから右請求については同法第三六条を適用すべき限りではない。その適用があることを前提とする控訴人の請求は排斥を免れない。

二、本案請求に対する判断

本件土地がもと志賀幸作の所有のところ、同人が昭和二五年死亡したため被控訴人らがその相続によつて右土地を共有するに至つたこと、長岡市農業委員会が昭和三五年八月九日被控訴人らに対し右土地が農地法第六条第一項第一号に該当する農地であるとして買収計画を樹立しその公告をした旨の通知をしたので、被控訴人らが同年一一月九日控訴人に対し右土地について同法第七条第一項第三号の買収除外指定申請をしたところ控訴人が同年一二月一日右申請を却下し、次で昭和三六年三月一日をもつて右土地を買収する旨同年一月九日付の買収令書を被控訴人らに交付し買収処分をなしたことは当事者間に争がない。

よつて被控訴人ら代理人の右買収処分が無効であるとの主張を検討する。

本件土地を含む附近土地について昭和三四年九月二五日控訴人の設立認可した西裏土地区画整理組合(以下単に区画整理組合と略称する)によつて同年一一月頃以降区画整理事業が実施され、昭和三六年三月二八日換地計画の認可されたことは控訴代理人の認めるところであり、この事実と成立に争のない甲第一、第三、第六、第八号証、乙第八号証の一ないし三、原審証人武見誠作、渡辺芳夫、新井喜作、土田清一郎、鈴木静治(但し後記措信しない部分を除く)の各証言、原審における検証(第一回)及び鑑定人難波寛治の鑑定の各結果を総合すれば、次の事実が認められる。

区画整理組合は昭和三四年七月九日控訴人に対し設立認可申請をしたのであるが、その際の事業施行計画区域は長岡市都市計画区域内である同市土合町及び四郎丸町の一部である二万八千余坪を対象とし、その設立目的は右区域が四囲を市街地にかこまれているため市街地に転換するを相当とし、日光不足、引水排水の不便等によつて農耕地としての価値が半減し、これに不向であることを理由としてその区域全体を宅地化し、土地利用の合理化を図ろうとするものであつたこと、その当時右区域の四六%余は水田、二六%余は畑、二%弱が導水路であつて宅地は僅に七%に過ぎなかつたが施行計画によれば、道路は三%余から二三%余となり田畑は計上されず宅地として六三%が造成される予定で、その他は公園、河川、組合保有地とされていて、施行地域内を通過する長岡市都市計画路線を基線とし、縦横に道路を設け造成される街宅地は一区画三〇〇坪以下とし短形型として道路に接するように定めていたこと、右区域の北方及び東方には長岡市弓町、四郎丸町等の既成市街地が接し、福島江を距ててすぐ南方には昭和三三年設立されて計画を遂行中の中裏土地区画整理組合の区画整理地区があり、新潟大学附属中学校、新潟県総合職業訓練所等と住宅があり、西南方には鉄道宿舎等の住宅が以前から建ち西方には専売公舎長岡出張所、信越本線長岡操車場に接し、更にその西方には長岡市千歳町(一部農地)、千手町、宮原町、南町等の既成市街が連なつていること、区画整理組合が前記のように発足し、その事業が計画どおり遂行され昭和三五年八月三〇日開催の同組合の臨時総会では当時樹立されていた仮換地指定計画どおりに換地されても異議ない旨の総会の決議がなされたのであるが、これによれば本件土地は道路に面する五〇坪づつの短形地に減坪され従前と同一場所に換地されたものであつて、買収当時も鈴木静治が耕作していた農地であること、右区画整理が始まつてから地価は急激に騰貴し、その以前である昭和三四年七月頃は本件土地付近は坪当り八〇〇円位のところ昭和三五年一二月末頃は坪八、〇〇〇円位に上昇し本件買収のなされた翌三六年一月九日当時には坪一〇、〇〇〇円位に値上りしなおその後においても上昇の傾向にあること及び本件土地付近では昭和三三年四月当時農地を宅地に転用する計画を有する者には転用の許可が与えられ、別段の支障なく住宅が建築され以後もその傾向に変りのないことが認められる。そして本件において控訴人が被控訴人らの買収除外指定申請を容れなかつたのは具体的な宅地利用の目的が明示されなかつたためであることは控訴人指定代理人の主張に照し明らかである。右認定に反し区画整理組合の本件土地の宅地造成計画を否定する趣旨の原審証人鈴木静治の証言は措信し難いし他に右認定を左右すべき資料はない。

右事実によれば、本件買収当時本件土地の現状は農地であつて区画整理組合の換地計画の認可はなされていなかつたけれども昭和三五年八月末には仮換地指定計画の議決がなされ、買収後間もない昭和三六年三月二八日換地計画の認可がなされた事跡に照し右買収当時右認可が必然的になされる状況にあつたものと認めるべきであり、右区画整理計画の遂行により地価が急騰した事実に照すと本件土地は買収当時客観的には既に農地としての実体を失い、何時にても宅地に転用される性格を備えたものとして耕作は臨時的のものに化していたと認めるのが相当である。

してみれば本件土地は近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地として指定されるべき場合に該当するものであるからたとえ未だ知事の指定をうけていない場合であつてもこれを買収することは違法であり(最高裁昭和三〇年四月五日第三小法廷判決民集九巻四号四一一頁参照)、しかもその違法は重大明白であつて右買収処分を無効と判定するのが相当である。

よつて被控訴人らの本件買収処分の無効確認を求める訴は正当として認容すべきであり、これと同趣旨に出た原判決は相当である。

なお控訴人は、原判決中原審昭和三五年(行)第一三号事件につき原判決が被控訴人の請求を排斥したにかかわらず右事件についての訴訟費用の負担を控訴人に命じたのは違法であるとして、その部分の取消を求めているが、原審は民事訴訟法第九〇条の趣旨により控訴人に右事件についての訴訟費用の負担を命じたものと解せられ、右事件につき原判決の判示するところによれば右の原審の判断は相当と認められるから控訴人のこの点についての主張も排斥を免れない。従つて本件控訴は理由がないので、民事訴訟法第三八四条に則り、これを棄却し訴訟費用の負担について同法第九五条第八九条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 大場茂行 西川美数 秦不二雄)

(別紙目録省略)

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